『第3話 ~はじまり~』

 父さんが帰ってくるとすぐ、表でクラクションの鳴る音がした。

 「もう、来たみたいだね。じゃあ、あとひと踏ん張りだから」

 父さんと俺と涼は、荷物を運ぶために表に移動した。

 「ごめんね~。ちょっと早かったかな?掃除もう終わった?」

 トラックの助手席から母さんが降りてきた。

 「あ、はじめまして、こんにちは。俺、隣に住んでる宮城涼です」

 

 はじめまして?父さんとは知り合いみたいだったのに・・・。

 「はじめまして、君が涼君ね。これからよろしくね。いつでもうちに来ていいから」

 「ありがとうございます」

 自分の知らない世界がそこにあって、自分だけ仲間外れだった。

 

 それから、母さんも加わったから引越しの作業ははかどって、なんとか夕方には終わった。

 「涼君、今日はありがとう。ごめんね、わざわざ」

 「いえ。あの夕飯はうちで食べてください。そのために俺、今日買い出しに行ってきたんで。すきやきでも構いませんか?」

 「え?いいの。じゃあ、遠慮なくごちそうになろうかな。久しぶりに真守とも話したいしね」

 父さんは相変わらず遠慮というものを知らない。まあ、お隣さんとは知り合いだからかもしれないけど。

 

 「じゃあ、ちょっと俺、いろいろ準備してくるんで、30分くらいしたら来てください

 そういって、涼は家に戻っていった。(といっても、お隣さんなんだけど・・・)

 

 「こんばんは~」

 父さんは、そういうと勝手に玄関のドアを開けた。一体、父さんと宮城家の関係は何なのだろう、と思いながら、自分も勝手に部屋に入っていく。母さんは、“手ぶらで行くのは、恥ずかしいから、何か一品作ってから行くわ”ということで、あとから来ることになった。

 「真守!ひさしぶりだね」

 部屋に入るとすき焼きのいい香りがただよってきた。そして、涼と、涼のお父さんだろう、真守さんが鍋に具材を入れていた。

 「真咲(まさき)~!それに、悠紀くんも。まあ、あいさつは後にして、まずはすき焼きを食べようか。あれ、そういえば、郁(かおる)さんは?」

 「あ、郁なら、いま台所で、おつまみ作ってるよ。いいって言ったんだけど、郁の性分だから仕方ないよ」

 「郁さんらしいな。じゃあ、郁さんには悪いけど、先に食べるとする?」

 「そうだね。じゃあ、いただきます。悠紀も涼君もたくさん食べるんだよ。」

 そういうと、父さんは俺のお椀に鍋からいろいろ入れてくれた。 

 

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