父さんが帰ってくるとすぐ、表でクラクションの鳴る音がした。
「もう、来たみたいだね。じゃあ、あとひと踏ん張りだから」
父さんと俺と涼は、荷物を運ぶために表に移動した。
「ごめんね~。ちょっと早かったかな?掃除もう終わった?」
トラックの助手席から母さんが降りてきた。
「あ、はじめまして、こんにちは。俺、隣に住んでる宮城涼です」
はじめまして?父さんとは知り合いみたいだったのに・・・。
「はじめまして、君が涼君ね。これからよろしくね。いつでもうちに来ていいから」
「ありがとうございます」
自分の知らない世界がそこにあって、自分だけ仲間外れだった。
それから、母さんも加わったから引越しの作業ははかどって、なんとか夕方には終わった。
「涼君、今日はありがとう。ごめんね、わざわざ」
「いえ。あの夕飯はうちで食べてください。そのために俺、今日買い出しに行ってきたんで。すきやきでも構いませんか?」
「え?いいの。じゃあ、遠慮なくごちそうになろうかな。久しぶりに真守とも話したいしね」
父さんは相変わらず遠慮というものを知らない。まあ、お隣さんとは知り合いだからかもしれないけど。
「じゃあ、ちょっと俺、いろいろ準備してくるんで、30分くらいしたら来てください」
そういって、涼は家に戻っていった。(といっても、お隣さんなんだけど・・・)
「こんばんは~」
父さんは、そういうと勝手に玄関のドアを開けた。一体、父さんと宮城家の関係は何なのだろう、と思いながら、自分も勝手に部屋に入っていく。母さんは、“手ぶらで行くのは、恥ずかしいから、何か一品作ってから行くわ”ということで、あとから来ることになった。
「真守!ひさしぶりだね」
部屋に入るとすき焼きのいい香りがただよってきた。そして、涼と、涼のお父さんだろう、真守さんが鍋に具材を入れていた。
「真咲(まさき)~!それに、悠紀くんも。まあ、あいさつは後にして、まずはすき焼きを食べようか。あれ、そういえば、郁(かおる)さんは?」
「あ、郁なら、いま台所で、おつまみ作ってるよ。いいって言ったんだけど、郁の性分だから仕方ないよ」
「郁さんらしいな。じゃあ、郁さんには悪いけど、先に食べるとする?」
「そうだね。じゃあ、いただきます。悠紀も涼君もたくさん食べるんだよ。」
そういうと、父さんは俺のお椀に鍋からいろいろ入れてくれた。