真っ青な海の町。
窓ガラスには、これからどんな出会いがあるのが、少しだけ期待している自分が映っていた。
もう二度と傷つきたくないと思っているのに・・・。
一台のタクシーが、アパートの前に止まった。降りてきたのは一人の中学生らしい少年と、その父親らしき男性。
「ここ?」
目の前のちょっと古ぼけたアパートを見上げながら少年が尋ねた。
「そうだよ。少し古いけど、ここが父さんの思い出の場所なんだよ。ゆうも気に入ってくれると嬉しいな」
「父さんの思い出って、なに?」
「それは、また今度。さあ、引越し屋さんが荷物を持ってくる前にひと掃除しておかないと。母さんに怒られるから」
そういって、父さんはアパートの中に入っていった。
父さんの思い出がどんなものなのか気になるけど、今の俺には、これからの自分の日常のほうがもっと大切だった。これからどんな風に過ごしていくか、ずっと考えてきた。もう、あんな風になりたくない。自分の弱さなんていやなほど分かっているけど、弱い自分を変えることなんてできない。だから・・・
「あの、そこどいてもらえる?」
少年が一人、不満そうな顔で立っていた。両手にはパンパンの買い物袋を持っている。
「さっきから聞こえてた、おれの声?ここのアパート、入り口がせまいからそうやって突っ立っていられると邪魔なんだけど」
「ごめん」
そう言って横によけると、少年はそそくさとアパートの中に入っていった。
「ゆ~う、早く手伝ってくれないかな?」
「ごめん、今行く」
なんだか、苦手なやつだな、と思った。まあ、関係ないけど。そんなことを思いながら、俺もアパートの中に入っていった。